退去の立ち会いが終わったあとに届く請求書を見て、「壁紙の張替え代が全部こちらの負担になっている」「この金額は妥当なのだろうか」と手が止まる——賃貸の原状回復では、この場面が一番もめます。貸す側も「どこまで請求していいのか」がはっきりしないまま見積もりを作ることになりがちです。
実は、負担の線引きには国が示した考え方があります。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と、民法の条文です。この記事では、富山県内で原状回復や内装工事を行っている新和工業はうすりぺいるが、借りる側・貸す側のどちらから見ても使える判断の物差しを、一次資料に沿って整理します。
原状回復とは「入居時の状態に戻すこと」ではない
もっとも多い誤解がここです。国土交通省ウェブサイトの「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」についてでは、原状回復は次のように定義されています。
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
「新品同様に戻すこと」とは書かれていません。同じページには「いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。」とも明記されています。普通に住んでいて古くなった分の修繕費は、毎月の家賃ですでに受け取っているという整理です。
法律の側も同じ立て付けになっています。民法第621条(賃借人の原状回復義務)は次のとおりです。
「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
括弧の中がポイントで、通常の使用による損耗と経年変化は、はじめから原状回復義務の対象外と書かれています。
負担が分かれる3つのゾーン
国土交通省ウェブサイトで公開されている、国土交通省住宅局参事官の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料(令和5年3月・PDF)では、退去時の状態が3つに整理されています。
▶ ① 経年変化・通常損耗 → 義務なし
建物や設備が時間の経過とともに古くなった分、そして普通に暮らしていて生じた傷みです。「経年変化と通常損耗分の修繕費用は賃料に含まれるものと考えられますので、経年変化と通常損耗に対しては原状回復義務がありません」と説明されています。
▶ ② 故意・過失、善管注意義務違反など → 義務あり
同じ資料が挙げている例は、クロスへの落書き、誤ってつけたフローリングのキズ、結露を放置したために拡大したカビやシミ、喫煙によって生じた臭いやクロスの変色です。
▶ ③ グレードアップ → 義務なし
「退去時に古くなった設備等を最新のものに取り替える等の建物の価値を増大させるような修繕等はグレードアップであり原状回復義務はありません」。設備を新しい型に入れ替える費用まで退去者に回すことはできない、という整理です。
富山の住まいで問題になりやすいのは②の「結露を放置したために拡大したカビやシミ」です。冬に窓まわりや北側の壁で結露が出やすい土地柄で、結露そのものは建物側の事情でも、放置して広げてしまった分は借りた側の負担になりうるという線引きになります。気づいた時点で拭き取り、換気をして、直らないようなら早めに管理会社へ連絡しておく——これが後々の負担を分ける差になります。
借主負担でも「全額」ではない——経過年数の考え方
ここが金額に一番効くところです。同じ参考資料には、こう書かれています。
「退去時に故意・過失、善管注意義務違反等による損耗等があり、賃借人に原状回復義務があると判断される場合にも、費用を全て賃借人が負担するわけではありません。」
具体的には、「耐用年数が経過した設備について、残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する」とされています。住んだ年数が長いほど、同じ傷でも借りた側の負担割合は下がっていくということです。ガイドラインが示す耐用年数を、同資料の表から抜粋します。
| 設備等 | 耐用年数 |
|---|---|
| 壁(クロス) | 6年 |
| 床(畳床、カーペット、クッションフロア) | 6年 |
| 流し台 | 5年 |
| 冷暖房機器、ガス機器 | 6年 |
| 非金属家具(たんす、戸棚等) | 8年 |
| 金属製器具、便器、洗面台 | 15年 |
| ユニットバス、下駄箱 | 建物の耐用年数(木造22年、RC造47年など) |
| 畳表、フローリング、建具(襖・柱) | 経過年数を考慮しない(=負担割合は下がらない) |
いちばん下の行は注意が必要です。同資料は「長期間の使用に耐えられ、部分補修が可能なフローリングや、襖紙、障子紙、畳表といった消耗品は経過年数の考えにはなじまない」としています。年数で割り引かれない=負担割合が下がらないという意味なので、ここは古くても金額が軽くなりません。ただしフローリングは、全体の毀損による張替えの場合だけ建物の耐用年数で経過年数を考慮するとされています。
逆にクロスは6年です。クロスの経過年数が6年を超えていれば、負担割合は1円(ほぼ0%)まで下がっていることになり、張替え費用の全額が請求されているとしたら、この考え方とは合っていません。起算点は「入居年数」ではなく「クロスの経過年数」で、入居時に新品へ張り替えられていれば入居年数がそのまま経過年数になり、入居時点ですでに3年たっていたクロスなら入居年数に3年を足します。
ただし同資料は、経過年数を過ぎている場合にも賃借人は善管注意義務を負うため、「例えば、故意にクロスに落書き等を行った場合、一定の費用負担を求められることがあります」とも書いています。6年たてば何をしても負担ゼロ、という意味ではありません。
直す範囲は「補修が可能な最低限度の施工単位」
もうひとつ、金額を左右するのが範囲です。参考資料では「賃借人に原状回復義務がある場合の負担対象範囲は、補修工事が可能な最低限度の施工単位とすることが基本です。」とされています。
壁の一部に傷があるからといって、部屋全体・住戸全体の張替え費用がそのまま借りた側の負担になるわけではない、ということです。もっとも、毀損箇所だけを張り替えるとその部分だけ判別できてしまうため、同資料は「賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替費用を賃借人負担としてもやむをえない」としています。一方で、部屋全体のクロスの色や模様をそろえるための張替えは商品価値の維持という側面が大きいので、全体分を借りた側の負担にするのは妥当ではない、という整理です。
例外もあります。喫煙等により居室全体のクロスが変色したり臭いが付着した場合は、居室全体の補修費用を賃借人負担とすることをガイドラインが認めています。ここは貸す側・借りる側のどちらにとっても押さえておきたい分岐点です。
クロスや床の部分的な直し方については内装工事、傷やへこみを部分補修で目立たなくする方法については建材リペアのページでもご紹介しています。
ガイドラインは強制ではない。最後は契約内容と現況で決まる
大切な注意点です。参考資料の第1章の冒頭には、ガイドラインは「トラブルの未然防止の観点から現時点において妥当と考えられる一般的な基準をとりまとめたもの」であり、「使用を強制するものではなく、原状回復の内容、方法等については、最終的には契約内容、物件の使用の状況等によって、個別に判断、決定されるべきものであると考えられます」と書かれています。
賃貸借契約に特約が入っていることもありますので、まずは契約書を確認してください。敷金については民法第622条の2で、賃貸借が終了して物件を返したときに「受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」と定められています。
話し合いがつかないときの相談先としては、富山県消費生活センター(富山本所 076-432-9233/高岡支所 0766-25-2777)があります。契約の解釈や法的な判断が絡む部分は、こうした窓口や専門家にご相談ください。なお当社は工事を行う立場ですので、費用の負担割合そのものを判断することはしません。どこまでが借りた側の負担かは、契約内容と当事者間でご確認ください。
貸す側にとっては「どこまで直すか」が空室期間を決める
オーナー様・管理会社様の立場では、線引きは費用の話であると同時にスケジュールの話でもあります。次の入居者の募集を早く始めたいのに、直す範囲が決まらないまま日数だけが過ぎる、という状況は起こりがちです。
整理の順番はシンプルです。①経年変化・通常損耗にあたる部分(貸す側で判断する範囲)②借りた側の負担になりうる部分③次の募集のために手を入れたい部分(グレードアップ)——この3つを分けてから発注すると、見積もりの説明もしやすくなります。
新和工業はうすりぺいるは、ハウスクリーニングから内装・建材リペア・塗装・屋根まで自社で対応しています。外注をはさまないぶん費用を抑えやすく、連絡へのレスポンスも速いのが強みです。「この傷はリペアで足りるのか、張替えが要るのか」といった判断も、現地を見たうえではっきりお伝えします。法人のお客様向けの窓口は業者・法人のお客様へ、料金やお支払い方法は料金・お支払い方法のページをご覧ください。
富山県の原状回復のご相談は新和工業はうすりぺいるへ
富山市を拠点に、高岡市・射水市・氷見市・砺波市・小矢部市・南砺市・魚津市・滑川市・黒部市・上市町・立山町・舟橋村・入善町・朝日町など富山県全域に対応しています。退去後の空室クリーニングから、クロスの張替え、傷の部分補修まで、まとめてご相談いただけます。詳しくは原状回復のページをご覧ください。
出典:国土交通省ウェブサイト「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html)、国土交通省住宅局参事官「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に関する参考資料」令和5年3月(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001611293.pdf)。いずれも2026年8月18日確認。本記事では、これらの内容を要約・編集して紹介しています。条文は民法第621条・第622条の2から引用しました。
